「私が語り始めた彼は」 三浦しをん

私が語りはじめた彼は (新潮文庫)

私が語りはじめた彼は (新潮文庫)



三浦しをん作品、今年何個目だ?
それだけこの方の作品を気に入ったということでひとつ。



私は、彼の何を知っているというのか?
彼は私に何を求めていたのだろう?
大学教授・村川融をめぐる女、男、妻、息子、娘……。
それぞれに闇を抱えた「私」は何かを強く求め続けていた。
だが、それは愛というようなものだったのか……。
「私」は、彼の中に何を見ていたのか。
迷える男女の人恋しい孤独を見つめて、
恋愛関係、家族関係の危うさをあぶり出す。




この男 つまり私が語りはじめた彼は 若年にして父を殺した 
その秋 母は美しく発狂した

 − 田村隆一「腐刻画」より引用



この詩にインスピレーションを得た作者がつづった
村川教授とそれに関わった様々な「私」がその男を語る短編6作。


6作すべて読んでも村川教授の輪郭さえつかめない。
古代中国史専門の歴史学者、容姿はイマイチ、でもモテる。
浮気は数知れず、だけどある女性と出会って離婚して家を出る。
それに巻き込まれた、妻と子供たちそれぞれから見た村川。
そして再婚相手の娘に関わった人々から見た村川。
どう魅力的なのか、伝わってきにくいのだか、そこが魅力なのだろうか。


最初はいまいち乗り切れず、面白くなかったらどうしようと思っていました。
が、村川の息子が語り手となる「予言」あたりから、ぐっと面白くなる。
引き込まれて、村川に関わった人の他の話も聞きたくなるのだ。


村川との関わりった人々は、少なからず人生を狂わされます。
だけど、それを回想していくなかで、語り手たちは自分なりの解決策を見出します。
解決といっても、それが必ずしもハッピーでないのがまた良い。
愛の恐ろしい部分、昏い部分を淡々として書き方で見事に表現している。
なんて表現力、さほど年齢が離れていないというのも驚きだ。


今まで読んだ作品のどれとも違うし、これは好き嫌いが分かれるだろうなぁ。
私は、三浦さんの作品の中で暫定1位かもしれない。
この人の書く恋愛が絡む小説って一筋縄でいかないからまた読みたいなぁ。



このままだと、三浦さんの既刊文庫を大人買いしちゃいそうで怖い!(笑)