「鷺と雪」 北村薫

鷺と雪 (文春文庫)

鷺と雪 (文春文庫)


ベッキーさんシリーズ最終巻。
最後を迎えるのがもったいなくて、先延ばしにしてました。


今回も3作品。
神隠しにあったと噂される子爵の行方を追う「不在の父」
補導され口をつぐむ良家の少年は夜中の上野で何をしたのかを探る「獅子と地下鉄」
運命の偶然が導く切なくて劇的な物語の幕切れ「鷺と雪」


前2作よりもさらに確実に上流階級の世界でも澱が溜まって、
淀んで行く世界の様子が説得力を持って描かれているなぁと。
ルンペン・ブッポウソウドッペルゲンガーなどを題材に、
この時代の狂気が人々を押し流してゆく様子がやっぱり上手い。


そして、1作目から着実に成長した英子が迎える幕切れ。
歴史上の実際の事件、昭和11年2月26日のあの日。
電話のシーンが印象的で、読み終えてしばらくボヤーっとしてしまったくらい。
英子が少女を終えた日、そして日本が暗黒の世界に乗り出した日。


この電話のシーンは、実際にあった話をモチーフにしてるんだとか。
あの日にそんなことがあったなんて、私も知らなかったんだよなー。


3作目はあまりベッキーさんの活躍がなくて残念。
この物語の主人公があくまで英子だったのだなと思った。
でも影になりながら英子を導いたベッキーさんはやっぱりカッコイイな。


本当にこれで最終巻なのかな〜。
もう少し描いても面白そうだけど、ここで終わるから美しいのかもな。
直木賞受賞作とありましたが、3作まとめて読んだから受賞の深さが分かった。