「蜩ノ記」 葉室麟

蜩ノ記

蜩ノ記



先月読んで、深い感動を得た葉室麟さんの作品。
この本で直木賞をとったのですね!


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豊後・羽根藩の奥祐筆・檀野庄三郎は、城内で刃傷沙汰に及んだ。
からくも切腹を免れ、向山村に幽閉中の元郡奉行・戸田秋谷の元へ遣わされる。
秋谷は七年前、前藩主の側室と不義密通を犯した廉で、
家譜編纂と十年後の切腹を命じられていた。
庄三郎には編纂補助と監視、七年前の事件の真相探求の命が課される。
だが、向山村に入った庄三郎は秋谷の清廉さに触れるうちに、
その無実を信じるようになり、その真相を知りたいと強く思うようになる。
命を区切られた男の気高く凄絶な覚悟を穏やかな山間の風景の中に謳い上げる。


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とても静かな物語です(前に読んだ『秋月記』と比べると)
でも、戸田秋谷の生きざまに圧倒されます。


7年前の不義密通の罰として10年後の切腹を命じられた秋谷。
物語は、切腹の日が3年後に近づいたところから始まる。
庄三郎は、城内での刃傷沙汰の咎として秋谷の監視を申しつけられる。
しかし、実際に秋谷に会った庄三郎はその人となりに次第に考えを変えていく。


7年前の不義密通の真相は、中盤で明かされますが
その真相その裏側にあるものを調べ明かしてゆく必要性が出てくる。
やがて分かってくる真実、家老・秋谷・前藩主の側室。


そして、秋谷らが住む向山村の農民たちの動きも大切な要素に。
源吉と郁太郎の幼き友情が、胸を突きます。
また、庄三郎に斬られた信吾との友情もまた美しきことかな。


どんな場面においても、自らの進むべき道を見極める秋谷。
彼の生き方に人々は自然と影響を受けるのでしょう。
それに対して、家老たちの浅ましさ。
こんな人のために命を失うことが定まった秋谷が無念です。
でも、秋谷はそれさえも受け入れて自分の命を見つめるのです。


このご時世、命をかけて何かを成し得ることもない。
でも、そういう覚悟で生きていくことはできる。


葉室麟さん好きだ!
他の作品も読まなきゃ!