「秋の花」 北村薫

秋の花 (創元推理文庫)

秋の花 (創元推理文庫)


「円紫さんと私」シリーズ3作目。


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幼なじみの真理子と利恵を待ち受けていた苛酷な運命。
それは文化祭準備中の事故と処理された一女子高生の墜落死だった。
真理子は召され、心友を喪った利恵は抜け殻と化したように憔悴していく。
ふたりの先輩である〈私〉は、事件の核心に迫ろうとするが……。
生と死を見つめ、春桜亭円紫師匠の誘掖を得て、〈私〉はまた一歩成長する。


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今までは、日常に起こる不思議を解きあかす作品でしたが、
今作で初めて、死者が出ます。
まず、その展開に衝撃を受けました。
本作でスポットが当たる真理子と利恵は前作「夜の蝉」にも
<私>とすれ違う後輩として出てきてました。
まさか彼女たちにこんな出来事が待ち受けていようとは。


真理子の死の真相は、円紫さんが見事に解いてくれますが、
本作は、それがメインではありません。
まだ見ぬ未来が広がっていたはずの真理子の扉は閉ざされ、
親友を失った利恵もまた心の均衡をとれなくなっていく。


主人公が言う。
「私達って、そんなにもろいものなのでしょうか。」と。
もろいのだ。
とてつもなく。
それでも、今という一瞬の積み重ねを生きてゆく。


円紫さんが言う。
「許すことはできなくても、救うことはできる。」と。
そして、最後の頁の真理子の母の言葉――。
朝っぱらから、電車の中で号泣しそうになりました。
鼻の奥がツンとなる、そんなの久々です。


真理子って名前、北村作品で読んだことあるなぁと思ったら、
「スキップ」の主人公でした、別人だけど。
なんとなく、「秋の花」の真理子の生き直しのような感じ。
手元に残っていたかなぁ「スキップ」。
せっかくだから、読み返したい。


重いテーマでありながら、温かさを感じられるのは
やはり、北村さんならではの書き方だからだろうか。
残り2作品も、丁寧に読もうっと。