「朝霧」 北村薫

朝霧 (創元推理文庫)

朝霧 (創元推理文庫)


<円紫さんと私>シリーズ最終作。


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前作『六の宮の姫君』で着手した卒業論文を書き上げた私は、
出版社の編集者として社会人生活のスタートを切る。
新たな抒情詩を奏でていく中で、巡りあわせの妙に打たれ暫し呆然とする。
その様子に読み手は、従前の物語に織り込まれてきた糸の緊密さに
陶然とする自分自身を見る想いがするだろう。
幕切れの寥亮たる余韻は次作への橋を懸けずにはいない。


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主人公の<私>は大学生から、社会人へと年を重ねています。
端々に、主人公の成長が見られるのですが、
トーンは最初のころに戻ったような、ぜんぜん違うような。


やはり、前作『六の宮の姫君』のような書評ミステリより、
こういう日常にふっとできるミステリのほうが好きです。
短編なので、円紫さんの出番も多いですしね(やっぱりそこか)
円紫さんの何でもかんでも解けちゃう才能はちょっと怖いけど、
でも、日常でこういう風に謎を解いて導いてくれる人がいるのはいい。


現段階では、この作品の続きはない。
なので、シリーズに出てきた人々の未来も書かれている。
正ちゃんと江美ちゃんと<私>の3人組は、
あのころそして今の友人TとCとの関係にも似ている。
(彼女たちのように高尚な会話はしてないけどね…)


そのほかの登場人物もゆるりゆるりとつながってゆく。
そうして、<私>が最後に思うこと。
彼女もまた、冷麦の紅の1本をつなげるのかもしれない。


あぁ、面白いシリーズだった。
もともとは、去年読んだ<ベッキーさん>シリーズの感想を
いろんなサイトであたっているときに、
比較の対象としてこのシリーズが挙げられていたのです。
で、気になってようやく読み始めたんだったなぁ。


私は<ベッキーさん>シリーズの『鷺と雪』の幕引きが好みですが、
あの作品は、舞台となった時代が時代なので特殊か。
それに比べると、こちらの<円紫さんと私>シリーズのほうが
終わったあとの余韻があたたかくて、ほっとします。


その後は書かれないのでしょうか。
もう少し、読んでみたい気もしますが、
主人公の<私>も良い年齢なので、円紫さんを頼ることも少なくなったのだろう。